vol.3「空と山のあいだ」
山岳遭難 ( ノンフィクション・ルポルタージュ ) から学ぶ
「空と山のあいだ」
田澤 拓也著 角川文庫 ¥590
昭和31年5月に槇有恒隊長率いる日本隊の、マナスル初登頂の快挙に刺激されわが国にも空前の大衆登山ブームが訪れた。「霊峰」「女人禁制」とうたわれた修験者たちの、修行の場とされていたような国内の山々はピッケルやザイルなどの、近代登山用具をたずさえた青年たちが、全国各地の山々で麓から山頂に向かって急速に押し寄せていった。そうした中で、すでに悲劇は続発していた。昭和37年の正月4日間には全国で過去最悪の「死者行方不明者31名」を記録し、1年後の昭和38年1月には、愛知大学山岳部員13名が北アルプスの薬師岳で遭難していた。そうして、東京五輪の9カ月前の昭和39年1月、本州北端の青森県にある津軽富士(岩木山)で今度は戦後生まれの高校生たちの悲劇が発生したのである。秋田県大館鳳鳴高校の山岳部員5人が遭難、4人が死亡する事後が起きた。連日の大掛かりな捜索にもかかわらず、5人の行方はわからない。岩木山は津軽富士といわれる霊峰だが、標高わずか1625メートルの単独峰だ。一体5人に何が起きていたのか。ただ一人の生還者の証言をもとに、地元の関係者、捜索隊、警察などの状況を取材、猛吹雪の中をさまようながらも最後まで、お互いをかばい合う 5人の生と死の軌跡を描き出す感動のノンフィクション。……本文より。
(H林)